コンクリートが危ない
名著『コンクリートが危ない』(岩波新書)の著者、東京大学名誉教授の小林一輔さんが10月7日逝去されたとのことである。以下、ケンプラッツの記事(2009.11.18)を参考にしながらの感想である。
氏は「半永久的に使用できるはずのコンクリート構造物が早期に劣化している問題を取り上げ、警鐘を鳴らした」人である。
マンションの購入者は大体100年は保つのではないかと漠然とした期待を持って購入していたのだが、それがとんでもない幻想だった。これが「社会的常識」であったなら現在ほどマンションが普及することはなかったかも知れない。
コンクリートが長く保たない理由は氏によると、「責任施工という名の無責任施工が、コンクリート構造物の早期劣化を招いた」ことが大きいという。「アルカリ骨材反応」や「ほとんど除塩されていない海砂が使われていた」ことなど官学民を含む建設業界全体の汚点である。また政治屋の関与を許す土壌も問題がある。
「84年、日本住宅公団(その後、住宅・都市整備公団)が販売した埼玉県の狭山台団地で、異常な劣化が見つかる。」「狭山台団地の調査では、(氏の)研究室の総力を動員して「アルカリ骨材反応による劣化が原因」との独自の調査結果を発表した。住宅・都市整備公団はこれを否定し、意見が対立する。」
在野の研究者が官学の既成権威とぶつかり握りつぶされる構図はあるが、建築・土木の学者が官とこのようにぶつかることはほとんどあり得ないことで、非常に勇気のいることである。
「(氏が)土木学会コンクリート委員会の委員長をしていたときには、現場の生コンの品質を調べようと、ゼネコンの研究所に協力を求めて抜き打ち検査を実施した。結果はJISの規定から数パーセントしか外れていなかった。後でわかったことだが、情報は事前に漏れ、抜き打ち検査にはならなかった。」
氏は「土木一家は閉鎖社会」と言ってはばからない。「何か事故が起きたときに組織される調査委員会では、結論はいつも“天災”か“当時の技術の限界”。みんなそこへもってくる」。
この構図はJR西日本の事故調査委員会でも見られる。
氏の予言。「事態を放置すれば、コンクリート構造物の一斉に壊れはじめる時期が2005年から2010年までにやってくる可能性が高い」、今まさにこれから起ころうとしていることである。
一方、建築学会は「建築物の耐久計画に関する考え方」(1988)で
「(鉄筋コンクリート建物の)耐用年数の定義は、建物の機能、性能が劣化によって低下して限界を超え、かつ通常の修繕や一部分の交換などを行っても、回復しないであろうと考えられる状態になった時とする。」としている。
で、どの程度の寿命かというと、
「建物全体の望ましい目標耐用年数は、住宅で高品質の場合で100年以上、普通品質で60年以上」であるが、「建物耐用年数は、コンクリートの品質や施工状況、外壁の仕上材、維持保全などの条件が年数を推定するのに関係してくる」。つまりは「逃げ」ではないか。
氏の言葉通り「責任施工という名の無責任施工」では長寿命は期待できないということだ。善良な施工者、技術者を何人も知っているが、組織・制度の壁に阻まれてその良心を発揮できない状況も多い。社会全体がこのままでは崩壊に向かいかねない。
氏のご冥福を祈る