NHK「プロジェクトX」のライバル番組にテレビ東京「ガイアの夜明け」がある。7月15日は「築46年、マンション建替え物語」だった。以下は誌上採録の試み。
戦後日本の経済成長と共に普及してきたマンション生活。昭和32年、東京新宿区高田馬場に3棟の白亜のマンション「諏訪町住宅」ができた。今回はここが番組の舞台。
洋風でモダンな生活スタイルは当時の人々のあこがれの的だったが、その「諏訪町住宅」も今では築46年。至る所老朽化が進み100年は保つといわれたコンクリートの建物が早くも崩壊の危機に直面している。
壁の中に空洞があり水がたまっていたり、玄関ドアも下の部分をはがさないとドアが開かなくなった。なにより洗濯機も冷蔵庫も置く場所がない。生活が便利になってこんなに家電製品が増えるとは予想もしていなかったのである。当時は内風呂があるだけで良かったが、最近造られる住宅と比べるとなんとも見劣りがする。床下の下水管は真っ赤に錆び付き、ガス管すら危ない。
現在日本全国の分譲マンションは400万戸、1000万人が住んでいる。その中で築30年を超えるマンションはおよそ23万戸。10年後には100万戸を超える。
築30年を超えたマンションの多くはエレベーターがない。高齢者には住み続けることが困難である。これまでマンションの建替えができたのは全国でたったの81件。同じ建物に暮らしていても住民たちの意見をまとめるのは難しい。
国は最近規制緩和に踏み切った。20年ぶりに『区分所有法』の改正(5分の4以上の賛成のみで建替え可能)、『マンション建替円滑化法』の新設(建替え組合の法人化を可能とし、意見決定、資金調達、工事契約などの円滑化促進)を行った、
東京都大田区にあった築41年の公団住宅。ここは4年前に建替えに成功した(ヒルズ久が原)。四階建てから十五階建て、256戸が447戸の巨大なマンションになり、住民は1.5倍の広さの住戸を手に入れた。
いよいよ始まったマンション建替え時代。しかしここにはいろいろな難関が立ちはだかっている。
役所広司のナレーション、場所は引越が済んで人気のなくなった高田馬場「諏訪町住宅」。
14年前より紆余曲折を経て、ようやくマンション建替え決議にこぎ着けた。マンションの建替えは住人と開発業者が二人三脚でいかないとうまくいかない。場面はこれまでの住民の建替え委員会の会合やインタビューと続くがその詳細は省略。
「諏訪町住宅」の建替え計画は三階建てと四階建て3棟60戸を取り壊し、五階建て96戸のマンションを建てようというもの。増やした24戸を販売し建築費24億円を捻出する。所有者は現在の面積45平米なら負担金なしで手にはいる。差額を支払えばもっと広い部屋を手に入れることも可能。デベロッパーは旭化成都市開発部。同社は今、建替えを一戸建てや新築マンションに次ぐ事業の柱にしていこうと考えている。
住民にとっての大きな問題は仮住まいである。建替えまでの2年間自己負担で仮住まいをしなければならない。高齢者にとっては金銭以外の事情もある。
東京都新宿区にある同潤会江戸川アパート(築69年)。ここは30年にわたる話し合いの末、去年ようやく建替えが決まった。仮住まいに引っ越しして半年後、建物の取り壊しを前に敷地の中庭で建物とお別れの集まり。この建物の建替えは先日NHK教育TVでもレポートされていた。ここのデベロッパーも旭化成。同社の女性社員が住民の仮住まい先をこまめに訪問し、何かと相談にのっている。建物の建替えをサポートするには、設計や法律・税金の専門家だけでなくハイタッチで面倒見の良い彼女のような存在が必要なのだ。
古くなったら建替えればいい。しかし調査をすると建替えられないマンションは実に9割にのぼる。原因は「既存不適格」。容積率制限が建設後に厳しくなったり。建設時にはなかった日影規制などで同じ大きさで再建築できないことである。
例えば、東京都世田谷区、環七沿いに建つ十三階建ての「柿の木坂東豊エステート」(築35年)。阪神大震災で倒壊した多くのマンションと同じように一階が駐車場のピロティ。住民たちは建替えを検討したが既存不的確と診断された。現在90戸ある住戸が建替えると数が減る。これでは建替えができない。
長谷工コーポレーションの調査。築35年以上のマンション50件の中で容積率規制による既存不適格が35件、日影規制による既存不適格が9件。建替え可能な物件はわずかに6件。つまり建替えると9割が現状より小さくなる。こういうマンションに残された道は大規模修繕しかない。住民はピロティの柱に厚さ18ミリの鉄板を巻き耐震補強を行った。かかった費用は総額1億3000万円。これでマンションの延命を図ろうという算段だ。延命にはその他の修繕・材料・配管の更新もあり、今後も苦難の道は続く。
建替えができないのは既存不適格の物件ばかりではない。東京郊外の多摩ニュータウン。ここでも老朽化が目立つようになった。四階建てでエレベーターなし。住民たちは建替えを考えたが、バブル期のピークには3000万円弱はした住宅価格も今は800万円にまで下がっている。地価の下落が建替えを阻んでいるのだ。この中のある団地では土地の一部を売って改築費に充てる計画を立てたが、開発業者が乗ってこない。
マンションの建替え。これは住民たちが自分で解決しなければならない問題である。解決の展望が見えてこないこの問題に役所広司のナレーションが終わる。
「諏訪町住宅」は建替え決議が成立し『マンション建替円滑化法』に基づく適用第1号となった。しかし世の中の9割以上のマンションは建替え不能という宣告を前提に、いずれは尽きる寿命を全うしなければならない。キーワードは「延命」。建物の寿命は物理的条件だけで決まるわけではないが、多くの躯体(コンクリート)がまともに100年保たない現状を見ると、高級なタイル貼りだといっても安心できない。こうなっては、省エネと健康がおまけについてくるくらいのセールストークで外断熱改修を宣伝することが外断熱普及の早道かも知れない。「外断熱工法」改め「外皮カバー工法」、「コンクリート延命工法」とでもいってはどうか。 |