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水路閣
2004.10.2
 今回は京都で考えたこと。

 写真は京都の東、南禅寺境内にある水路閣である。水路閣とは琵琶湖疎水の一部をなす煉瓦造の橋梁で、近代文化遺産にも指定されている。水路閣に触れる前に簡単に琵琶湖疎水を説明する。

 琵琶湖疎水は明治18年に起工、23年に竣工した、大津から琵琶湖の水を京都に引き、上水利用の他、水力発電と船による物資の移動などを目論んだ大土木事業である。トンネルの一つが全長2400メートルもある、当時としては相当の難工事であった。京都府はこの工事のため東京の工部大学校を出たばかりで当時21才の田邊朔郎を土木技師として雇い、田邊の総指揮の下全てを日本人の手で完成させた。この疎水によって、蹴上(地名)に水力発電所を作り、市内に電車を走らせ産業を興すことが可能となる。またこの疎水の一部は蹴上から北にも向かい、浄水場を経て市内北部にも上水を供給している。そのためできるだけ高いレベル(標高)を保って水を流す必要があるので疎水は山裾を通ることになり、谷があれば橋が必要となる。水路閣は南禅寺付近を通過するための橋であり、その下流(北部)は哲学の道につながる。南斜面の京都にあって哲学の道の疎水が北に向かって流れているのはこのためである。

 水路閣は全長93メートル、幅4メートル、15基の橋脚を持つ巨大なアーチ橋である。完成後110年以上を経て今なお現役であるが、時間が水路閣に風格と威厳を与え、水路閣に対面すると厳粛な感慨すら覚える。今でこそ調和と美しさを感じるものの完成時は南禅寺の堂宇に並ぶと異物に感じる人も少なくなかったに違いない。時間は人工物に美を賦与するのだ。

 戦後我々は高度成長の繁栄と技術革新、大量生産・大量消費の波の中で新しいものは善、古いものは悪として、次々に古い建物を壊しては新規を悦ぶ風潮に育ってきた。その結果として、建物を長持ちさせ、育った環境を守り、そこに思い出を刻むことができなくなった我々は、郷土への愛着も自分というアイデンティティも失ってしまったのではないだろうか。時間を生活に閉じ込めるためには、まず建物を長持ちさせることが大事なのだと、先人の営為を前に改めて感じた次第である。

 京都に行かれたら是非水路閣を訪れ、先人の偉業を偲ぶことをお勧めする。近くには琵琶湖疎水記念館や疎水と船溜まりを繋ぐインクラインの遺構などもあり、京都の別の顔を発見できるだろう。